原価計算の基礎
ものづくり企業において、原価を把握することは経営管理の中の最重要課題の一つとなります。 これまで原価計算方式がいくつか提唱されてきましたが、完全なものは有りません。様々な原価計算の特徴を
知ることで目的に応じた原価計算方式を選択することが重要となります。
1.原価計算の目的
原価計算の目的は、企業の経営管理に不可欠な経済的情報を提供する事です。従って、経営管理の目的に従い
異なる原価計算が必要となります。
例:財務諸表目的であれば、製品別の原価が必要となり、日常管理では管理責任者毎の原価が必要となります。
2.原価および原価計算の定義
(1)原価の定義
1)原価とは、経営における一定の給付にかかわらせて、は握された財貨または用役の消費を、経済価値的に
表したものである。(原価計算基準より)
2)原価とは、特定の目的を達成するために、犠牲にされる経済的資源の、貨幣による測定額をいう。
(岡本清(原価計算より))
(2)原価計算の定義
原価計算とは、企業をめぐる利害関係者、とりわけ経営管理者にたいして、企業活動の計画と統制および
意思決定に必要な経済的情報を提供するために、企業活動から発生する原価、利益などの財務的データを、
企業給付にかかわらしめて、認識し、測定し、分類し、要約し、解説する理論と技術である。
(岡本清(原価計算より))
3.原価の基礎的分類
原価は2つの視点により分類することが出来ます。
(1)形態別分類
原価は発生形態別に材料費、労務費、経費の3種類の基礎的な原価に分類されます。
1)材料費
物品を消費する事によって発生する原価です。
2)労務費
労働力を消費する事によって発生する原価です。
3)経費
物品、労働力以外の原価財を消費する事によって発生する原価です。
(2)製品との関連における分類
生産された一定単位の製品との関連で、その発生が直接的に認識されるか否かにより、直接費と間接費に
分けられます。
1)直接費
製品を製造するために直接投入された原価です。
例:車のボディに使用された鋼材や製造するために投入された労働力など
2)間接費
製品を製造するために間接的に投入された原価です。
例:水をろ過するために使用されたフィルターや工場の温度調整に費やされたエネルギーなど
従って、材料費、労務費、経費は、直接材料費、直接労務費、直接経費と間接材料費、間接労務費、間接経費
の6つに分類されます。
(3)総原価
製造原価に営業費を合わせたものを総原価と言います。営業費は、販売費と一般管理費に分類されます。
1)販売費
製品の販売に要する原価です。
2)一般管理費
製造原価にも販売費にもいずれにも振り分けることが出来ない管理費です。
例:社長や経理部門の給料など
(4)非原価項目
原価計算制度において原価に算入しない項目で次の様な項目が有ります。
1)投資資産や遊休の設備などに関する資産に対する減価償却費や管理費など
2)異常な要因による資産価値の減少
例 火災や天災による損害、急激な経営環境の変化による異常操業、訴訟費など
3)税制上とくに認められている損金算入項目
4)利益剰余金に課する項目
例 租税、配当金、役員賞与金など
4.原価計算の手続き
原価計算を行うためには、外部から購入した資産が経営活動により費用に転嫁するまでのフローを追跡する必要が
有ります。原価計算の手続きは次の3段階に分かれます。
1)費目別計算
製造及び販売のために消費した原価を費目別に計算するもので一般会計と原価会計を結合します。
2)部門別計算
費目別計算で把握した原価を原価発生部門別にもので、原価責任者別に管理を行う意味が有ります。
3)製品別計算
製品ごとに計算するもので、損益計算や利益管理に使用します。
5.責任会計
原価計算は、経営管理を行うための道具の一つであり、経営管理に結び付ける必要が有ります。経営管理は、組織
から与えられている権限と責任によりその範囲が異なります。原価に関する責任は権限と責任により次の3つに分類さ
れます。
1)原価センター
1人の管理者がその責任範囲における業務にだけに発生する原価にのみ責任をおう責任単位です。
通常は、部課長が管理者となります。
2)利益センター
1人の管理者がその責任範囲の経営活動における原価および利益に対しても責任をおう責任単位です。
通常は、事業担当やセンター長などが管理者となります。
3)投資センター
1人の管理者がその責任範囲の経営活動における原価および利益に加えて設備投資に対しても責任をおう
責任単位です。担当役員などが管理者となりますが、通常は利益センターとしてとらえられます。
管理者の責任範囲は、管理可能な原価のみ責任を持つべきで管理不能な原価の責任を押し付けるべきでは有り
ません。そのためにも、上級管理者は、管理可能項目と管理不能項目を区別した実績管理を行うべきです。
6.利益の計算式
利益に関する計算式として、次の計算式が考えられます。
1)利益=売価ー原価
2)売価=原価+利益
3)売価ー原価=利益
全て数学上は同じものですが、考え方が異なります。
1)では、初めに利益があり、売価と原価を決める考え方です。目標の利益を得るために設計を変え売価を高く
しようとする考えも生じる可能性が有ります。
2)では、売価は原価に目標利益を足したもので、市場価格を無視してしまいます。
3)は、売価から原価を引いたものが利益であり、市場価格が決まっており原価を下げることで利益を増加させ
る考え方です。
大野耐一氏は、3)の考え方を示しています。
参考図書 原価計算(六訂版)岡本清 著 国元書房