標準原価計算が、”原価計算基準”を元に会計制度のルールに基づいた方法で、公平さを保つことを目的とされていますが、一方
経営者の立場からでは、利益目標に対して有効な情報を与えるものではありません。そのため、経営管理を目的とした原価管理の方法が
必要となりす。
1.直接原価計算とは
直接原価計算とは、原価を変動費と固定費に分解し、売上高からまず変動費を差し引いて限界利益を計算し、限界
利益から固定費を差し引いて営業利益を計算することによって、正規の損益計算上に、短期利益計画に役立つ原価
・営業量・利益の関係を明示する損益計算の方法の一つです。
2.固定費・変動費
直接原価計算を行うためには、費用を固定費と変動費に分解する必要がありますす。そのためには、固定費と変動
費を理解する必要が有ります。
1)固定費:売上げや生産量の増減に関係なく、毎期一定に支払う費用のことです。
例:人件費、減価償却費、諸経費などがこれにあたります。
2)準固定費:一定の操業を越えると原価が増加するような原価をいいます。
例:残業代やパート・アルバイト代があります。
3)変動費:売上げや生産量の増減に比例して増加する費用のことです。
例:材料費や外注費などがこれにあたります。
3)準変動費:売上げや生産量がゼロになっても一定額が発生するが、その後、売上げや生産量の上昇に応じ
て比例的に増加する費用のことです。
例:水道光熱費があります。
3.固変分解
固変分解とは、直接原価計算では、原価を変動費と固定費に振り分ける必要が有り、そのことを固変分解と言いま
す。固変分解は、下記の方法があります。
1)
勘定科目法
勘定科目法とは損益計算書や製造原価明細書に記載されている科目を一つずつ変動費と固定費に振り分け
る方法で、
中小企業庁方式と
日銀方式があります。中小企業庁方式は比較的詳細な方法で、日銀方式は
簡易な方法となっています。勘定科目法は、比較的容易に変動費と固定費に振り分けることが可能となり
ますが、精度が低い事や決算後しか算出できないなど問題点もあります。
2)
最小二乗法
売上げや生産量と費用の組み合わせが想定する関数に、よい近似となるように、残差の二乗和を最小とす
るような係数を決定する方法です。売上げや生産量と費用のデータがあればエクセルを使用して簡単に求
めることが可能です。この方法では、1次曲線と仮定して行うので企業によっては固定費がマイナスにな
るなどの問題点もあります。
※正常な操業度の範囲では直線に近似しますが、異常操業では2、3次曲線となります。エクセルで正常
な操業範囲か判断することも可能です。
3)高低点法
過去の実績データのうち、操業度が最も高い点と最も低い点に着目し、その両者間の原価の動きを直線と
みなして変動費率と固定費を計算する方法です。簡易な方法ですが、精度の問題もあり、パソコンが普及
している現在では最小二乗法をお勧めします。
4)スキャッターチャート法
生産量と製造コストの実績を、グラフに記入して、それらの点の真中を通る直線から、1次方程式を導い
て、原価を予測する方法です。簡易な方法ですが、精度の問題もあり、パソコンが普及している現在では
最小二乗法をお勧めします。
5)工学的方法(IE法)
投入量と産出量との技術的な関係に基づき、発生すべき原価を予測する方法です。新製品の製造原価など
は過去の経験が利用できないために、この方法が有効です。欠点として、手間とコストが掛かる点があり
ます。
4.CVP分析
CVP分析とは、Cost:原価、Volume:売上、Profit:利益の相関関係を分析する手法であり、主に利益計画を
策定するときに用いられます。
(1)CVP分析の方法
売上げと変動費から限界利益率を計算します。
固定費を限界利益率で割ったものが損益分岐点売上高となります。
1)
限界利益
売上げから変動費を引いた利益を示します。限界利益を売上げで割ったものを
限界利益率と言います。
2)
損益分岐点売上高
損益分岐点売上高とは、利益が”0”となる売上のことを言います。損益分岐点売上高に対して、現在の売上
高が非常に高ければ安定した経営が期待できます。
3)
損益分岐点比率
現在の売上高と損益分岐点売上高の比率を言います。
(2)計算例
売上高:1,000千円
変動費:400千円
限界利益:1,000千円‐400千円=600千円
限界利益率:600千円÷1,000千円=0.60
固定費:480千円
損益分岐点売上高:480千円÷0.60=800千円
損益分岐点比率:800千円÷1,000千円=0.80
(3)目標利益
目標利益が有る場合に、CVP分析では次の方法で目標売上高を算出します。
1)算出方法
目標売上高=(目標利益+固定費)÷限界利益率
2)算出例
目標利益:300千円
目標売上高=(300千円+480千円)÷0.60=1,300千円
5.複数の品番が有る場合の利益管理
実際には、複数の品番があるため総合的な利益管理を行う必要が有ります。ここでは、2品番だけの単純化した
モデルで説明します。
(1)計画手順
1)全ての品番について限界利益率を求めます。
※純変動費である材料費と外注費だけを変動費にしても構わないです。
2)品番ごとの販売目標を求めます。
3)品番ごとの限界利益を算出し、総計します。
4)計画の総固定費を算出します。
※水道光熱費や梱包材など純変動費も総売上高で予算化できるものは固定費として算出しておくことも
可能です。
5)限界利益の総額から総固定費を差し引くことで利益を算出します。
※製造部門や事業部門など管理責任者の責任範囲で算出しておきます。
6)予実績管理を行います。
(2)計画例
天丼と牛丼だけを販売する場合の利益計画を策定します。
1)基礎データ

2)計画販売計画
天丼:600杯 牛丼:2,000杯

3)計画固定費
直接労務費 :140千円
製造間接費 :216千円
その他固定費:144千円
合計:500千円
4)計画利益
670千円ー500千円=170千円
計画利益が経営目標を満たすようにシュミレーションを行いながら実行計画を定めます。
予め基幹システムや少なくともエクセルデータとして原価データのデータベース化をしておくことをお勧めします。
参考図書 原価計算(六訂版)岡本清 著 国元書房
[決定版]ほんとにわかる管理会計&戦略会計 高田直芳 著 PHP研究所